今回は、Valkyrie Spearが誇るバッファー回路を内蔵したA/B BOX「Violence Buffer Ex+」の開発秘話です。当時、考えていたこと、そして込めた思いをできるだけ正直にお伝えできればと思います。

きっかけは「サウンドメッセ in Osaka 2025」への出展でした。
2024年10月頃、サウンドメッセへの出展を決めた際に、「Valkyrie Spearのブースに足を運んでもらうきっかけとして、何か面白いことができないか」と考え、新しいペダルを発表する構想が生まれました。

とはいえ、準備期間も限られており、ゼロから新シリーズを立ち上げる時間はありません。
そこで考えたのが、ブランドの中で最もシンプルなバッファーモデル「Violence Buffer Ex」を、さらに進化させるという案でした。

ただ、「Violence Buffer Ex」は、すでに“シンプルさ”を極限まで追究したモデルです。無駄がなく、すでに完結しているため、どう進化させるべきか悩み続けました。しかし、私の中でこのバッファーシリーズに一貫して、あるテーマ――「シンプルさの追究」にこだわっていました。
改めてエフェクターボード全体の信号ラインを見直したとき、「チューナー」の存在に目が留まりました。チューナー使用時はあまり気にならないものの、OFF時に無意識に内部のバッファー回路を経由して意図せずに音が変化しているケースもあるかなと思っていました(トゥルーバイパスの仕様であれば変わらないですが)。
また、Polytuneのようにバッファーを意図的に内蔵したモデルでは、音に独自の味付けが施されていることも多くありますので解釈は人によるかと思います。

「チューナー機能は使いたいけれど、信号ラインの本線はできるだけピュアに通したい」
そのような要望に応えられるよう、「A/B BOX機能」を組み合わせることに決めました。使い方の一例としてOUT Aを信号ラインの本線、OUT Bをチューナー専用とする構成にすることで、本線には余計なものを通さずに原音にできる限り近い音を鳴らすことができます。さらに「Violence Buffer Ex」由来のナチュラルなサウンドとプッシュ感によって、Valkyrie Spearのバッファー + A/B BOXでは、エフェクターボード全体をより力強く、自然に押し上げてくれるはずだと考えました。

とはいえ、機能面だけのアップデートではすでにViolence Buffer ExやViolence Boosterをお持ちのお客様にとっては物足りない、つまらないと感じるかなと思い、もうひとつサウンド面の新要素を加えることにしました。ここでまた悩みに悩みました。サウンドメッセ準備中もずっと考えてました。
そして考え抜いた末に辿り着いたのはシンプルに「低音」でした。
新モデルでは、内部スライドスイッチで切り替え可能な「FATモード」を追加することで、これまでよりも更にパワー感と厚みのある低音を選べるようにしました。
早速、手作業で試作機を組み、FATモードの低音量感を微調整。

FET増幅段のコンデンサや抵抗値を一つひとつ検討しながら、わずかな定数の違いで変わるサウンドを慎重に聴き比べていきました。候補を4パターンから2パターンまで絞り込み、最後の2択で長く悩み続け、結局サウンドメッセ直前まで調整を続けました。
最終的に選んだのは、「少しやりすぎかも」と思うほどパワー感を前面に出した設定。ただし、不要なボワつきが出ないよう、ギリギリのバランスを狙いました。

また、スライドスイッチをNormalにすれば、従来の「Violence Buffer Ex」そのままのサウンドとしても使えるようにしています。
こうして完成した「Violence Buffer Ex+」。
最後まで粘った甲斐もあり、納得のいく仕上がりとなりました。

シンプルさを突き詰めるというシリーズの延長線上にあるこのモデルに、“+”の名を冠しました。
サウンドメッセ当日は、現地で先行販売も実施。「せっかくバッファーを入れるなら、FATで太い音がいい」という声も多くいただき、今回の狙いとしっかり合致した手応えを感じました。
多くの方に欲しいとのお声をいただいている一方で、毎度のことながら生産が追いつかず申し訳ありません。ひとつひとつ、ハンドメイドで丁寧に、魂を込めて製作しています。
もし、楽器店で見かける機会がありましたら、ぜひ手に取ってお試しください。
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