[ペダル開発秘話6] Valkyrie Spearの集大成 Violence Booster MK-X “純音大吟響” Special Editionの誕生

Valkyrie Spear KENZOです。今回、10月にリリースしたばかりの、特別な思いを込めたバッファー兼クリーンブースター・Violence Booster MK-X “純音大吟響” Special Editionの開発秘話をお話しします。通常、表では話さないほどのかなり濃厚な内容を今回は特別に書いてますのでぜひお読み頂ければと思います。

このモデルの特徴的な名前でお気づきの方も多いかと思いますが、インスピレーションの源は日本酒の「純米大吟醸」です。いわゆる、精米歩合50%以下まで磨き上げた米と米麹、そして厳選された水だけを原料として、厳密に管理された製造工程を経て慎重に造られる日本酒のことです。日本各地の酒蔵が、それぞれのこだわりを込めた多彩な純米大吟醸酒を醸しています。

もしギターやベースの「音」で例えるなら、味わいに深みがあり、透き通るように洗練されたクリーントーン。
純米大吟醸酒の背後には、長い年月をかけて素材を極めていく姿勢と、一本一本の純米大吟醸に込められた杜氏や蔵元の思い、そしてストーリーが存在します。
このペダルもまさに同じところを目指していて、純米大吟醸酒のようにそれぞれの素材そのものの特性を徹底的に追究し、細部までこだわり抜いた究極のクリーンペダルが作れないか――その、きわめてシンプルな思いが出発点でした。

Valkyrie Spearとしてクリーントーンを追究し、これまでに6モデルをリリースしてきました。その中で「素材をメインとしてクリーントーンのさらなる深みを引き出す」という試みは、まさに自分自身への挑戦でもありました。

これまでにリリースしてきた Violence Boosterシリーズや Violence Bufferシリーズも、すべて “自分が本当に良いと思えたものだけ” を製品化してきました。だからこそ、今回さらに明確な違いを生み出せるのか? 製品として成立するほどの完成度まで持っていけるのか? という不安もありました。

それでも同時に、まだ見ぬ音と出会えるかもしれないという強いワクワク感が、自分を前へと押してくれました。

このモデルが目指したサウンドイメージは、次のとおりです。
・ベース、ギター両対応
・より重く、深みのある “重心の低い” ローエンド
・トレブル〜プレゼンスレンジが潰れなく、広いダイナミックレンジと雑味のないピュアな響きをもつ
・全帯域でキレの良いアタック感と高い追従性を得られる
・全体を鳴らしたときにバランスが取れつつ、しっかりと厚みを感じられる音

これを実現させるために挑戦がはじまりました。

まずは土台となる低域の量感の微調整を行う。低域のローエンドをMK-X標準品よりも持たせて重心を下側に寄らせる。これはJFET段のバイパスフィルターを形成する箇所のコンデンサーに並列で4.7µFを追加し、過剰にならない程度にレンジを広げてローエンドを出せる土台を作る。少しずつ調整して音を聴いていきこの値で一旦キープ。しかし、この段階の調整だけではまだ音がこもり気味かつボワついてして応答性も平凡で、全然よろしくない。

そこで、この“こもり”と“ボワつき”を解消するため、まずわかりやすく初段増幅回路後の信号ラインに使っているビンテージのカーボン抵抗を金属皮膜タイプへ変更し、ハイの質感を持ち上げてみた。しかし、今度はハイが暴れすぎてしまったため元の構成に戻すことに。
この箇所は影響が大きいため、金属皮膜ではなくカーボンのままであるべきと判断し、MK-X標準モデルで採用しているAllen Bradley(以下AB)とは別種のビンテージ・カーボン抵抗を試してみたところ、ミッドのパンチが程よく出てきて好感触。そのまま採用した。とはいえ、まだハイがやや弱いため、次はハイの調整に取り掛かる。

今回は、ケース内部のゲインスイッチの2系統で音のキャラクターを切り替える構想でした。
まず High Gain 側では、「艶感を持ちながらパワフルさを重視したキャラクター」を狙い、最終段の抵抗のみを元々の AB 製ビンテージ・カーボンから PRP のメタルフィルム(金属皮膜)抵抗へ変更してテストしました。すると、上質な艶が加わり、ハイも柔らかすぎず硬すぎず、理想的なバランスに整ったため、この仕様を採用しました。

一方、Low Gain 側は重心こそ低めですが、抜け感も重視したキャラクター。もともとソリッド寄りの音作りで、最終段の抵抗も AB 選定のままで狙いどおりの音像が得られていたため、この構成をそのままキープしています。

ただ、まだ今のままでは抜け感や低音のアタックに十分なインパクトがありません。
そこで次に、配線の線材選びに着手しました。さまざまな線材の組み合わせを試行した結果、Western Electric のビンテージ線材と、電源には OYAIDE 3398-16TW を用いる構成が、ハイがよりクリアに抜ける理想的なバランスとなり、この組み合わせを採用することにしました。

ただ、アタック感や応答性は、まだまだ自分が思い描く高いレベルには到達していませんでした。このままではわざわざ製品化するほどではありません。

その後、様々なパーツを付け替えて試しましたが、理想の音はなかなか実現できず、一時はリリースを諦めようかと挫折しかけたこともありました。しかし、それでも他に何か試せることはないか、と考え続けました。

そこで試しにハンダを変えてみることにしました。ハンダの違いを真面目に試すのは意外と大変で、まずは2台の個体を部品のばらつきが出ないよう全く同じ条件で作り、1台だけハンダを変えて音を比較します。こうしないと、真の違いは把握できません。この作業を正確に繰り返しながら、現状の構成に最適なハンダを探していきました。

さまざまなハンダを試した結果、最終的にKESTER 44 銀入りのビンテージ品にたどり着きました。このハンダに変えた瞬間、ギターだけでなくベースでも試すと、音は締まりが増し、アタック感とスピード感が際立ち、ローエンドも太くはっきりと聴こえるようになりました。さらに高域も綺麗に締まり、歪みっぽさは全くありません。銀入りタイプのためハイ上がりの傾向がありますが、元々抑えめに調整していたため、このKESTERビンテージによって全体のバランスが最適化されます。
まさにこれだ、と感じました。通常、ハンダの違いは隠し味のように微細な変化ですが、今回の変化はとてもインパクトがあり、確実に音を良い方向へ導けました。

こうして、ここまで建設的に組み合わせてきたそれぞれのパーツたちに運命を感じながら、最終的な音は完成しました。

実はこのモデルの正式名称は、当初はまったく決まっておらず、製作を進めながらずっと悩み続けていました。素材を最大限に活かしながら作るという過程で、日本酒の“純米大吟醸”という洗練された言葉を、楽器と音の世界に重ねられないかと考え、その結果──“純粋な音を目指し、吟味したこだわりの素材で響かせる”という思いを込めて、「純音大吟響」と名づけました。

その想いと特別感を象徴するため、ケース前面には金色のメタルプレートを添えました。

そして──遂に、Violence Booster MK-X “純音大吟響” Special Edition は完成しました。ここまで辿り着けたのは、数々の部品との“出会い”と、そのタイミングが奇跡のように重なったおかげです。

最後に── 世の中には本当に様々なパーツが存在します。しかし、「この部品を使えば正解」というものはないと思っています。重要なのは自分が目指す音に対して、そのパーツが本当に合っているかどうかかなと考えています。モダンな音、あたたかみのある音…目指すべきサウンドは人それぞれと思います。

Violence Booster MK-X “純音大吟響” Special Editionの開発は、そうした部品一つひとつの特性を丁寧に感じ取りながら、自分がそのときに思う理想の音へと限界まで近づけていく──そんな物語そのものでもありました。

現在、有難いことにSuspended 4thベーシスト・フクダヒロム氏のメインボードに導入頂きました(リンク : エフェクターボード紹介ページ)

Suspended 4th ベーシスト・フクダヒロム氏 エフェクターボード

試奏 – OFF/ONでの音の違い(ベーシスト・フクダヒロム氏)

また、The Novembers/Petit Brabanconベーシスト・高松浩史氏にベースマガジンWEBのペダルレビューで好評を頂きました。

そして、MUCC/Petit Brabanconギタリスト・ミヤ氏にもご使用頂いてます(リンク : Instagram)

このペダルへ込めた想いが伝わってきたようで作り手として冥利に尽きます。

少量生産で中々お手元に届くまでに時間がかかるかもしれませんが、ぜひ機会がありましたらお試しくださいませ。

では、また。

関連ページ